「終わりなき疾走」
第２０話
＜夢の途中＞
アメリカ旅行から帰ってきてから約２年半後、平成４年年始。(1992)
今度は本当に店を退店する流れになってきました。
ここ数ヶ月で、考えていた事は
「もう辞めるべるべきでは・・・？」
と、いうことばかりでした。
たしかに上の人達から見ればまだまだでしょうが、同じ場所で
ずっといると、慣れすぎてしまい、自分に甘えも出てくることで
しょう。たしかにこの時期、
「楽」でした。
入店した頃、掃除ひとつ満足に出来なかったクセに、数年後は「楽だ」
と、言えるようになるとは思ってもみませんでしたが・・・。
ある程度仕事が出来てくると誰もあんまり叱ってはくれませんし、
好きなように仕事の流れを作れますがそれ以上の成長もありません。
ブツブツ文句を言っていられるうちが成長出来る環境なんです。
・・・そんな事を考えていると、ますます退店の気持ちが増してきました。
休みの日には「ハローワーク」へ行ってました。現在は不景気でどこの
職安もかなりの人出らしいですが、この頃の職安は閑散としてて
小さな駐車場もガラガラでしたよ。
私は、とあるサロンを見つけ、その店のコンセプトを気に入り、面接のアポを
とりました。桑名市内にあるその店は自分の条件にぴったりとハマり、
そちらの経営者の方と契約を交わしました。
しかし、今はまだ現在の店を辞めてはいませんので約１ヵ月後の契約でした。
再就職先が決まって、いよいよ上司へ退店届を申し渡さなくてはいけません。
これがなかなか言いにくいですよね。
曲りなりにも約７年間お世話になったのだから。しかし、言わなくてはなりま
せん！ ・・自分の為にも。
・・・以外にも、あっさりと承諾してもらいました。あちら側としては、
居てもらえるなら何年でもいたほうが良いに決まってますが、それは
有り得ないのは承知の上なのでしょう・・・。
私の考えとして、店を辞める時は
「発つ鳥、跡を濁さず・・・」で
いきたかったので
「ケンカ別れ」や
「失踪」は、なんとしても避けたかった
んです。狭い業界、どこでまた出会うかわかりませんからね。
＜木枯らしに吹かれても＞
最終日もいつものように掃除をはじめます。建物外側のコンクリート階段は
私の管轄で、朝、上から水を掛け、デッキブラシでこすりますが、その後、
雑巾で水気を拭くのです。冬場は外気より階段の方が冷えていて、雑巾で
拭いていると水気が
シャーベット状になるのでした！
そしてその日も淡々と仕事をこなしてゆきます。
平成４年２月２０日。６年と１１ヶ月の修行が終わりました。
終礼で、挨拶をした後、本宅に居る元専門学校の先生でもあった社長の
もとへお礼と挨拶を言いにいきました。
その時にゼヒひとつ、先生に聞きたい事があったのです。それは、
私が６年１１ヶ月在店していた「事実」というのは先生の眼から
見て如何なものか？と、いうことです！先生は、
「う〜ん、上等！」
この一言で救われました。いくらかお世辞も入っていると思いますが、
これでこの数年間は報われたのです。(^_^
働き始めた頃、早く辞めたくてしかたなかった頃の事を思い出すと、
笑えてきます。
「将来、店をやめて出る時はどんな気持ちなんやろか・・・？」
今がその時なんです。
羽翼曲折はありましたが、なんとか仕事を覚えて修める事が出来ました。
しかし、この時点ではまだ、ひとつめの壁を乗り越えたにすぎません。
終わりなき疾走はこれからも続きます。
・・・帰り道、真冬の夜風は冷たかったんですが、一つの試練を乗り越えれた
という充実感がいっぱいで、足取り軽く帰りました。
夜空の星は寒さに凍りついていましたが気分はすがすがしかった事を
思い出します。
・・・・・終わり。