「終わりなき疾走」
第１０話
＜秘儀！タイガーカット＞
「尻」を出してシャカシャカとやっていたある日、中学生の男の子が
カットにやって来ました。当時、中学生は校則で「丸刈り」の義務
付けがありました。
長さによって三分刈り、五分刈りとかあって、三分は6ｍｍとか、
五分は8ｍｍとか、使うバリカンの厚みが色々あります。
丸刈りは、ただバリカンでカットすればいい・・・と、言うもの
では無く、全体にバリカンを入れたあと、すそ周りをハサミで
「ぼかす」んです。つまり、毛の生えている所と、生えていない
所の境目を薄くカットして、ぼかしていきます。
そして、ハサミでラインをつけ、それを剃ります。
シェービング技術はすでに出来ましたから、「ぼかし」が出来る
ようになれば、中学生の丸刈りに置いては、最初から最後まで一人
で出来るようになります。
こんなチャンスは見逃せません！
この時すでにバリカンは扱えましたから、さっさと男の子を椅子に
座らせて、「何分刈りでしたか？」と、聞いて、バリカンをセット
した。
「うい〜ン・・・」と、バリカンは、軽い音を立てて、少年の伸びた
髪を落としていきます。
一通りバリカンが少年の頭を回って、わたしは、スイッチを切り、
バリカンをしまって、3歩下がって、仕上がった少年の頭を見ました。
「虎刈りでした・・・」 !?(･_･;?
・・・♪「タイガーマスク」のオープニングテーマ♪・・・
彼の頭は、近くで見るとわかりませんが、少し離れて見ると
見事にいくつもの「たてじま」が浮かんでいるのです！
バリカン入れの難しい所は、頭皮にあてる時の圧力なのです。
髪の長さはカートリッジの刃が決めてくれます。
「ぐっ！」と、押してバリカンを入れる所と、そうで無い所では、
微妙に長さが変わってしまうのです。
結果、見た目には縦の筋が入ってるように見え、
「タイガーカット」つまり「虎刈り」
と、なってしまうのでした。(T＿T)
もちろん、先輩に直していただき、悪い部分を諭されて、事無きを
得ましたが、お陰で、この少年のぼかしは出来ませんでした。
しかし、この後は、バリカンも完璧に扱える事が出来るようになり、
念願の「ぼかし」も何人か入れるようになりまして、中学生で
あれば、最初から最後まで、出来るようになりました。
（でも、長髪の中学生はまだまだでしたよ）・・・つづく