「終わりなき疾走」
第１３話
＜初日のお客さんにはご利益が・・・？＞
昭和６１年晩秋、ついに新店舗のオープンがやって来ました。
オープンには付き物の花輪やら観葉植物なんかがずらっと並んで、
店の周辺は華やかな雰囲気に満ち溢れていました。
何故か当時の私はオープン初日の１番目のお客さんに入りたくて、
入りたくて仕方がありませんでした。どうしてでしょう？？
だってそれは、すごく御利益がありそうじゃないですかっ！
店のオープン時なんて滅多に巡り会う事じゃありません。
そんな最初の一人目なんて、幸運のオーラが出てる気がして
なりませんでした。（結構ジンクスを信じるタイプなんです）
カットは未だ出来ませんでしたから、カット準備とシェービング
は私がどうしてもやりたかったので構えておりました。
どのお客さんが・・・いつも来て頂くどの方が一番目なのだろう！？
どきどきわくわくしてるのは多分私ぐらいのもんでしょうけど・・・。
そしてついに最初のお客様がっ！
・・・あれ、知らんお客さんやなー。とにかくカット準備だ。
そしてカットが終わって、念願のシェービングもさせていただき、
代金を頂戴して、「ありがとうございましたー・・・。」
「あのぅ・・・マスター、あの方はどちらの方ですか？」
「あー、あれは某スナックの店主である」
・・・私は少し複雑な心境でした。小さな事かもしれませんが
新店舗になって一番目のお客さんはいつもご来店してくれている
方に来てほしかった・・・。
そのお客さんに入る事に意義があったのに・・・。
ほんと、小さな事なんですが・・・残念。
そのスナックの店主は、それが最初で最後の来店でした。
（少なくとも、私が店を退店するまでは見たことありませんでした）
＜初日の忙しさといったら・・・！！＞
最初のお客さんが終わるまでにも、店内には次々とお客さんが入ってきます。
カットの椅子は当時５台ありましたが、あっという間に埋まっていき
ます。
待ちのお客さんは客待ち椅子で待ちますが、オープン初日という事も
あって「角樽」なんかもあって、酒を振舞ってます。
来ていただいたお客さんはそれを飲み干し、つまみなんかもあって
ちょっと赤い顔でカット椅子に座っています。
我々も一杯やりたかったんですが、それは危険なのでモチロン
しませんでしたよ。（それ以前に飲ませてもらえんわ！）
そしてその中に、中学生なのですが真っ赤な顔をしたお客さんも
いました。（誰や？飲ませたのは？）
オープン初日はガンガンに忙しくて、朝の８時からみっちり働きました。
椅子に座っていられたのは、昼食の間だけ！
あまりゆっくりしてると「いつまで食っとるかっ！！」
と、激が飛びます。
言われるのが嫌ですからサッサと食べてまた戦場へおもむくのでした。
＜戦い終わって・・・＞
激しい戦闘のような一日が終わって帰途に着く頃、今日は良くやってくれた
という事で 経営者本宅で夕食をご馳走になりました。
ちょろっとアルコールも出ておいしくいただき、経営者の方々から
「今日は、我々の乗った"船"が出航した記念すべき日である」と
超ご機嫌で言っておられたのを覚えています。
新店舗の初日を「船」の「出航」に例えた訳ですね。
そして今、思うのは、当時出航した店は・・・、
そしてまた、航行中の自分の店は今どの辺りにいるのでしょうか・・・？
何年か経つと、答えは出るのでしょうか・・・？
・・・つづく。