「終わりなき疾走」
第５話
＜失敗＞
ワインディングの練習も流れに乗って続けている頃、
もう一つの技術の習得にも時間は割かれていました。
シェービングとドライヤーによるセットです。
シェービングは、専門学校の時もそうでしたが、超、苦手でした。人の顔に
刃物をあてるわけですから緊張するのも当たり前ですが、寝かした
生（ナマ）の顔を上からのぞき見るのは非現実的でどうも・・・。
しかし、１年目、昭和６０年の秋の頃となると、
「門前の小僧習わぬ経を・・・」で、
子供や、比較的ひげの薄いお客さんは何とか剃れるようになり、
ドライヤーセットも学生時分にさんざん自分の髪をいじくっていたので、
コツが掴めれば結構面白く、特に若いお客さんの髪は楽しみながら
やってました。
その頃の整髪料は、ムースと、ジェルが主体で、
特にムースは、出たばかりでかなりセンセーショナルな物でした。
まだ、ハードとソフトの２種類くらいで、それでも我々はこの不思議な
泡と、ほのかな香りのする整髪料にヘアセットの
夢を託していたのでした。
特にハードタイプは、セットしたあとに塗布するとパキっと、仕上がり、
ツヤも良く、生渇き状態でつけると、乾く頃に自然な仕上がりになって
なんとも創作意欲をくすぐられました。
ジェルの方はとにかくバキっとなります。ある時、調子に乗って
ショートでツンツンのお客さんを、勝手にパンクだと思い込み
ぶっとい毛束で、ガンガンに立てたら、
「ちょっと、困るんですが・・」と、
言われてもう一度シャンプーした事がありました。勝手な
思い込みはいけませんね。m(_ _)m
また、シェービングでは、幼稚園ぐらいのお子ちゃまの顔も
剃っていたのですが、この年頃の子供は難しく、
顔を剃ってもらうのは、スーパー嫌いっ！な、子供が多いんです。
で、ある日、泡クリーム塗って剃りながら
「お兄ちゃんは上手なんだ。ソッコー剃ってあげるから、
ボク動かないでね(^^)」
と、言ったら
おぉ、神よこんな事があるのでしょうか・・・！？
「うん！」と、元気よく首を立てに振り、その振りで私のカミソリは、
ボクちゃんの左の眉毛を半分そり落としたのでした・・（￣□￣；）！！
あせった私は、なんとかしなくては・・・！と、思い、その半分の左側に
合わせ、
なんと右側もサイズを合わせてしまったのです！
もー、ボクちゃん麻呂状態！！
・・・しばらく後、
すっかり、頭の中が真っ白になっていた私は、平常心を取り戻し、
その後、親御さんにはお詫びを申し上げ、心の広いお方で許していただき
ましたが、その子には今でも悪い事したなー、と、思います。
そんな失敗があって、現在、そつなく仕事をさせてもらってます。
子供さん・・いや、全てのお客さんに入る時は、細心の心持で仕事に
取り掛かってますです。 ハイ。
・・・つづく