「終わりなき疾走」
第８話
＜不安＞
カットの試験は、試験官の指定項目が終われば、自由刈りになります。
しかし、業界に入って、1年そこそこの者が達者にハサミを使える
わけが無いので、仕上がりは重要ではありませんでした。
・・・・が、
この試験の本当に気をつけるべき所は、「衛生面」と「安全面」でした。
「清潔・安全である」これが全ての仕事を行なう前の大前提です。
これが守られているからお客さんは安心してご来店していただけるの
です。
ですから、各試験をとりおこなう前には、手指を消毒します。
「・・・を、始め！」と、言われれば、器具を持つ前にまず、手指消毒
でした。
そんな厳正な感じなので、もし、「耳切ったぁ」とか「血ぃが出た・・」
とかあったら、それはそれはもう 凄い事です。
・・で、出しちゃったんです。血を。ほんの少しなんですが。
たしか耳の上、シェービングの時だと思います。
ほんのちょっぴりですがそれだけでもう、頭ん中は真っ白でした・・・！
幽体離脱したかと思うぐらい意識が薄れ、ふ〜・・・、と、なりました。
なんとか自分を取り戻し、「処置、処置だ・・」と、言い聞かせ、
事前に準備してあるバンソコウや赤チン（←古い！）
を取り出そうとするのですが、なぜか、体が言う事を聞きません！
私は心の中で、（ちゃんと、出来るだろうか？）（処置法間違ってないか？）
（赤チンって、直に塗るんだっけ？）（大体、試験講習出てないから
わかんねーヨー）（汗、汗、汗・・・）
・・・かなりパニクってました。
結局、時間が来て、そのままになり、もうかなり飛んじゃった状態で
ポマードつけて七・三にして、あれよあれよの間におわっちゃいました。
もう、今更仕方が無いってーの！と、自分に言い聞かせ、後片付けを
はじめましたが、まだ緊張が解きほぐれてなくて、最後の一人までやってました。
そして、器具なんかは全部バッグに突っ込んであたふたと部屋を出ていった。
次の消毒法試験は別の部屋で行なわれました。
試験管かビーカーのような容器に液体が入っており、その匂いをかいで
薬品を当てるというものでした。
全試験が終わって、おじさんに耳の所を見せてもらうと、何か
固まっていて（カサブタかしらん？）解らんようになってました。
傷がほんのちょっぴりで助かったみたいです。
多分、小さなデキモノを潰しちゃったのでしょう。
それとも おじさんは、「ヘモグロビン」や「血小板」が多かったのかな？
まだまだ・・・・つづく